2019年09月15日

黒い誘惑U

「入ってええぞ」
その声に私は廊下で待機していた芸者さんと大広間へ。

そこは任侠映画で観たような光景だった。
「コの字」型に席が設けられ、真ん中の偉そうな着物姿の人を挟んで、左右にそれぞれ数十人の組員が座っていた。
私を呼んだ親分は片方の一番上席に。
どうやら組の抗争があり、仲介を立てての「手打ち」だと察した。
全員の顔が緊張でひきつっていた。

「おい、芸人。まずは何か芸をやれ」
真ん中の仲介人らしき人が命じてきた。
「ええっ!友人として参加じゃなかったの?」
そう思ったが口に出せる訳はない。
三味線の人がスタンバイしていたので、取り敢えず「歌ネタ」をやることにした。
「お姉さん、山本リンダの狙い打ち、弾けますか?」
そう言うと、キョトンとした顔。
そりゃそうだろう。三味線の人が旬の歌を弾ける筈がない。

仕方なく私は無伴奏で「狙い打ち」を踊りながら歌った。
これは当時の私の十八番であり、どこでも大爆笑の自信があった。
ところが・・・。
全くうけない・・・どころか、全員の顔がひきつったまま私を見ていた。
後で思うに、組の抗争を収める「手打ち」で「狙い打ち」は完全に選曲ミスだと。

全くシラケた状態で終わったのだが、
「まぁ、こっちに座って一緒に飲もう」
私は招待された組長の隣りに座らせてもらった。
そうして、ものの10分もした頃、
「すみませんが、次の仕事があるので、この辺で失礼させていただきます」
そう告げると、
「忙しいのに、すまなんだな。オマエら、お見送りを」

旅館の前には、すでにタクシーが止まっていて、組員全員がズラリと並んでお見送りを。
「おおきにな。これは車代や」
と、親分が封筒を手渡してくれた。
組員が頭を下げるのを尻目に、封筒の中を見ると10万円入っていた。
咄嗟に思った。「貰いすぎや。これで切れない縁になるっちゅうことなんか」

その後、その親分は確かに何度か「花月」の楽屋に訪ねて来られたが、私は丁寧にご挨拶するだけの仲で通した。
「今夜、どうや?」と誘われれば必ず断る。
結局、その数ヶ月後に私は上京してしまったので、その後の付き合いはなくなった訳だが。

今思えば、あれから大阪にいたらどうなっていたのかとも思う次第です。




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2019年09月08日

黒い誘惑

酒好きの私は、一人でぶらりと夜の街を徘徊して飲みに行くことも多かった。
20歳になって、そこそこテレビに出始めた頃もミナミの街を彷徨っている夜が多かった。

でも顔が売れてくると、一人でゆっくり飲ませてはもらえないことも。
「あんた漫才師やろう。こっちに来て一緒に飲みませんか」と、見知らぬ客から誘われる。
こっちがグループなら、そう声もかけてこないのだろうが、何しろ一人だと声をかけられることも多い。
正直鬱陶しいが、断ると「生意気な。若手漫才師のくせに」と思われるので、取り敢えずは暫くご一緒に飲んで早々に店を出る。
「もう一件、いきましょう」と誘われたら絶対に断ることにしていた。
とにかくテレビに出る頻度が高まるにつれ、そんなことが多くなっていた。

行きつけのミナミの店で何度かそんな感じで同席させてもらった人がいた。
いつもきちんとしたスーツ姿で高級クラブのホステスさんらしき女性を数人従えて飲みに来られていた。
年は50歳位で常に穏やかな笑みを浮かべ、私はどこかの社長か重役さんだと思っていた。
「今度うちで忘年会をやるのやけど、来てもらえないかな」
そう頼まれた私は「では相方と相談してみます」と答えたところ、
「相方はええんや。君一人で私の友人として来てもらえたらええ」
日時と場所を聞かされ、「その日はスケジュールが詰まっているので、本当に顔を出す程度しかできませんが」
そう言うと、「ええねん。顔さえ出してもらえたら」

そんなこんなで当日、私は聞かされていた旅館を便りに派手な舞台衣装のまま向かった。
そこは大きな老舗旅館。
「こんな場所で忘年会をするなんて景気のいい会社だなぁ」と思いながら、帳場へ。

「あの、○○さんの忘年会に呼ばれて来た者ですが」
そう言うと背後から、
「オマエ、うちのおやじに何の用じゃ」と。
振り向くと、黒のスーツを着たいかにもその筋の人と思われる目つきの鋭い若い衆が数人立っていた。
「ええ?おやじさんって?」
躊躇していると、大きな階段を袴姿でのっしのっしと若い衆を連れて下りてくる人が。
「わざわざ来てくれてご苦労さんやったな」
ミナミの飲み屋で会った穏やかな社長さんだと思っていたが、その筋の親分だったとすぐに気がついた。
「帰らせてもらいます」と言いたかったが私にそんな度胸もない。

「わしら、これからちょっとややこしい話し合いをするから、部屋の廊下で待っててくれるか」
そう言われて、派手な舞台衣装のまま廊下で待つ。
廊下には20人程の芸者さんが座って待機していた。
私はその末席にポツンと座った。情けなかった。

屈辱でこのまま帰ろうかとも思った。
「何が忘年会じゃ」
部屋の中から、何やら大勢が手を打つ音が聞こえてきた。
「これって、噂に聞く手打ち式か」

「もう入ってええぞ」
その一声で芸者さん達は深々と頭を下げて部屋に。
仕方なく私も芸者さんを真似て入った。
「俺は何をしてるのや。情けない」
そう思いつつ部屋に入ったものの、これからが20歳の若手漫才師にとっては衝撃的すぎた。

長くなりますので、続きは今度に・・・。



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2019年09月01日

痛い

朝、胸の痛みで目が覚めて、歯を磨こうとすると「歯槽膿漏」なので痛い。
歩き始めると、長年悩んでいる足のウオノメが痛い。
胸の痛みは再検査が必要という結果が、この前の健康診断であったのだが、今は医者に行く余裕もない日々を送っている。

「MIOROS」を閉めてから一年。
なれない業種の勤務に連日終われる日々。
私自身は懸命に頑張っているつもりだが、長年に渡り作家業でしかなかった私にとってはカルチャーショックも多かった。
敬語を喋れない社員。挨拶もできない人がいるのに驚いた。
それよりも、「ここはまともな会社だろう」と思って入ったところが、とんでもないブラック企業だったりして。

改めて「世間の現実」を知らされるはめになった。

そんなこんなで、このブログも休みがちでしたが、面白そうな昔の話をまたやっていきます。
そうそう。私が「B&B」の頃にとんでもない「直営業」に行ったお話でもしましょうかね。

何も知らない私は、ヤクザの抗争の末に行われる「手打ち式」なる現場に行ってしまったのです。
話は長いので、また今度に・・・。
posted by hagiwarayoshiki at 23:42| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする